1992年に公開された映画「天使にラブ・ソングを…」のヒットをきっかけに、さまざまな場所でゴスペル・ミュージックを耳にするようになりました。最近では音楽教室などでもゴスペルを体験でき、幅広い年齢層に親しまれています。
ゴスペルのルーツの1つとされるのがスピリチュアルです。イギリスのプロテスタント教会で歌われていた宗教歌がアメリカに渡り白人霊歌(white spiritual)となり、黒人奴隷の苦しい生活から生まれた宗教的な民謡が黒人霊歌(negro spirituals)と考えられています。有名なAmazing Graceは、黒人霊歌の代表曲です。
さらに賛美歌のメロディにブルースのスタイルやリズムを混合させ、ゴスペル・ソングという言葉を創ったのがトーマス・ドーシー(Thormas A. Dorsey)でした。その後もゴスペルは変化を続け、コンテン ポラリー・ゴスペルと呼ばれるスタイルへと発展しました。
ジャズ的な要素も強く、リズムの激しい、強烈な感情の発露が特徴とされるゴスペルは、コール・アンド・レスポンスという形式で歌われます。リーダーや牧師の熱情的な呼びかけ(コール)に対し、クワイアと呼ばれるコーラス隊が応えます(レスポンス)。礼拝では会場全体が一体となってレスポンスし、巨大な精神と音楽のうねりが熱狂的な礼拝となって聴く者を圧倒します。
アマチュア・クワイアにとって、練習に必要な楽譜や音源を入手するには大変な努力と苦労がともないます。長年ピアニスト、作・編曲家として活動してきた菊池ひみこ氏の編纂による掲載曲は、Kurt Carrに代表されるコンテンポラリー・ゴスペルから、実際の礼拝でも頻繁に歌われるAmazing Grace、Down By the Riversideなどの黒人霊歌をクワイア・アレンジしたものまで、多岐にわたります。
ゴスペルの歴史的背景、楽譜や音符の読み方、音名と解明の解説、ガイド・メロディ付の付属CDなどが含まれた本書は、楽譜だけでは音をイメージしにくいメンバーにも最適。新鮮なレパートリーを探すクワイア・リーダーから、ゴスペルのルーツに興味を持ち、真剣にゴスペルを学びたいシンガーまで。本書は本物のゴスペル・ミュージックに触れる、すばらしいチャンスとなるでしょう。
『はじめに』より
歌を歌うということは、すべての生き物の中で唯一人間だけに与えられたすばらしい贈り物です。この喜びを知らなかったとしたら、人生はなんと味気のないものでしょう。
人は歌うことに喜びを感じ、それを聴いてもらうことで一層喜びを噛みしめることができます。それが、ひとりでなくコーラスとなると、その感動は何倍にもなります。すべての喜び、感謝を表すのに、ゴスペル音楽は最も適した音楽ではないでしょうか。
アメリカにはGeorgia Mass Choir、Mississippi Mass Choir、The Thompson Community Singers などたくさんのクワイアがあります。日本では最近、映画Sister Act、The Pricher's Wifeなどのヒットにより一般的に知られるようになり、アマチュア・クワイアも全国的に増えているようです。
著者自身、1998年にクワイアを立ち上げ、また長年ピアニスト、作、編曲家として活動してきた経験を生かし、書き貯めてきたクワイアを多くの人に提供しています。
オリジナル音源のCD情報は、読譜のあまり得意でない方が本曲集で練習する際の模範として役立ちます。
また付属CDには、ガイド・ラインとなるすべての声部のリード・メロディが収録されています。ガイド・メロディ付伴奏トラックとカラオケだけのトラックの2種類で、ピアノ伴奏者がいない場合でも付属CDの伴奏で練習することができます。ソロ・パートのフェイクなどはそれぞれの感覚で歌うとよいでしょう。
掲載曲
Amazing Grace
Down by the Riverside
Reign
We've Come to Worship You
Real
Glory, Glory, Hallelujah
The Lord Strong and Mighty
Steal Away
I Sing Because I'm Happy
著者 菊池 ひみこについて
KEYBOARDS/PRODUCE/COMPOSE/ARRANGEMENT
宮城県仙台市生まれ。7歳よりクラシック・ピアノを始め、宮城学院大学音楽科・古賀るい子女史、東京藝術大学教授・堀江孝子女史に師事。幼少時からキリスト教に触れる環境にあった影響で、10歳頃から日曜教会の奏楽を担当するようになり、オルガンとパイプ・オルガンを東京藝術大学教授・島田麗子女史に師事。
12歳の時、ヤマハ・エレクトーン・コンクールでバッハの『トッカータとフーガ ニ短調』を演奏し入賞。15歳より作曲を学び、16歳の時、ヤマハ・エレクトーン・コンクールでロック・ミュージカル『HAIR』の音楽を自らアレンジ演奏して優勝。その後、アメリカ、メキシコ、フィリピン等を演奏旅行し、帰国後、プロのピアニストとして活動を始める。
吉田拓郎や上條恒彦、五輪真弓、大橋純子らのロック・グループやフォーク・グループに参加していたが、1975(昭和50)年頃よりジャズに傾倒し、藤井貞泰氏に師事。「原信夫とシャープス&フラッツ」で藤井氏の代役を務める。また、三木敏悟率いる「インナー・ギャラクシー・オーケストラ」に参加し、スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演。その一方で自らのバンドも結成し、ライブハウスやジャズ・クラブで演奏活動を精力的に展開。また、スタジオ・ミュージシャンとしての活動も始める。
1980(昭和55)年、アーニー・ワッツ(Sax)を迎え、1stアルバム『Don't Be Stupid』を発表。以後、オリジナルアルバムを次々と発表。1982(昭和57)年発表の3rdアルバム『All Right』は、同年のオリコン・ランキング、ジャズ部門のトップ3に入り、ヒット賞を受賞した。各地のジャズ・フェスティバルやライブハウス等での演奏活動も行い、1984(昭和54)年にはインドネシア・ジャズ・ソサエティの招待により、インドネシア・ツアーも行った。また、CMやTV、映画等の音楽を手掛け、コンピレーション・アルバムも発売されている。
1992(平成4)年、東映映画『新極道の妻たち 覚悟しいや』の音楽制作を機にブラス・ロック・バンド「BEAM」を結成。同映画のサウンドトラックも兼ねたアルバム『BEAM』を発売した後、各地で演奏活動を行った。その一方で、自己のピアノ・トリオでの演奏の他、サンバ・バンドやゴスペル・グループの結成、ロック系ミュージシャンとのセッションやクラシックの演奏家とのジョイント演奏など多彩な演奏活動を展開。
1999(平成11)年、夫でギタリストの松本正嗣と彼の故郷である鳥取市へ移住。 2000(平成12)年に同市で開催された「中四国ビッグバンド・ジャズ・フェスティバル」を機に「HIMIKO KIKUCHI BIG BAND」を結成。ライブCDの他、オリジナル・バンド譜も発売。また、ゴスペル・グループ「Holy Gang Gospel Choir」を結成し、主宰・指導するなど地域に根ざした活動も展開。 2002(平成14)年には、鳥取県で開催された「第17回国民文化祭」のイメージソングとして、同県出身の岡野貞一作曲の唱歌『ふるさと』をモチーフに全3楽章からなるジャズ・ピアノ・コンチェルト『ふるさと ?Home In My Soul』を制作し、開会式にて実演。御臨席の皇太子同妃両殿下を始め、来場者から拍手喝采を浴びた。 2005(平成17)年開催の「第17回全国生涯学習フェスティバル'まなびピア鳥取2005'」総合開会式で同曲を再演。この際に、合唱付きの第3楽章実演のために県内で一般公募した子どもたちで「夢フェスタ記念合唱団」を結成し、その歌唱で『ふるさと ?Home In My Soul』のCDを制作・発売。フェスティバル後も同合唱団を主宰・指導している。また、同年、「第30回鳥取市文化賞」を受賞。
現在、鳥取での自身の音楽活動や後進の指導に加え、東京を中心にピアノ・トリオなどでの演奏活動や、『ふるさと 〜Home In My Soul』制作・実演時の核となったメンバーを率いて結成した、ジャズ・カルテットと弦楽カルテットを融合させた8ピース・グループ「菊池ひみこDouble Quartet」での演奏活動も展開中。2007(平成19)年には、同グループの1stライブアルバム『DQ * The Live!』も発売した。