21世紀のジャズ・シーンに新たなスタイルを確立したジャズ・ギター界の鬼才、Kurtの初のリーダー作、Kurt Rosenwinkel Trio / East Coast Love Affairのソロを採譜し、彼のインプロヴィゼイションをアナライズ(分析)した楽譜集です。
Brad Mehldauを発掘したことで知られるFresh Sound New TalentからリリースされたこのCDは、ニューヨークのジャズ・クラブSmallsで行った、Avishai Cohen(ベース)、Jorge Rossy(ドラムス)とのトリオによるライヴ・パフォーマンスを収録したもので、現在のKurt Rosenwinkelサウンドを形づくる重要なレコーディングとして注目を集めました。
本書には、スタンダードとジャズ・クラシックのレパートリーに加えて、オリジナル曲「East Coast Love Affair」「B Blues」の2作品のトランスクリプションが収録されています。特に、セロニアス・モンクの「Pannonica」「'Round about Midnight」は、モンクのエキセントリックで美しい世界観を独特のハーモニー・センスで解釈し、高い評価を得ました。アルバム「Ballad Session」でのMark Turnerのプレイにも似た「All or Nothing at All」は、1961年のコルトレーン からインスピレーションを得た作品です。
掲載曲は、CDに収録されている曲順ではなく、難易度順に並べ替えられています。記譜もジャズ・プレイヤーが読みやすく、視覚的に演奏やハーモニーのアナライズができるよう工夫されています。臨時記号は可能な限りフラットを使用し、ハーモニック・セオリー(ジャズ理論)に基づいた表現を採用しました。しかし、理論を優先することで楽譜が読みにくくなると判断した場合には、プレイする際の読みやすさを優先して記譜した箇所もあります。それぞれのソロは、楽譜とタブ譜とともに演奏の注意点やKurtのテクニック、分かりやすい理論の解説が掲載されています。
掲載曲
Little White Lies
All or Nothing at All
Pannaonica
Turn out the Stars
Lazy Bird
Round Midnight
East Coast Love Affair
B Blues
アルバム East Coast Love Affair について
East Coast Love Affair は1996年の7月10日から7月24日にかけて、ニューヨークの名門ジャズクラブSmall'sで録音されました。Kurt Rosenwinkel(ギター)、Jorge Rossy(ドラムス)、Avishai Cohen(ベース)の3人をフィーチャーしています。この作品はピアニストBrad Mehldauなどの若い才能をいち早く見出すことで知られるスペインのジャズ・レーベルFresh Sound New Talentからリリースされました。
アルバムは3人のプレイヤーが創り出す自然発生的なサウンドを作品に反映するため、ライヴ・セッティングで録音されています。収録曲はスタンダード6曲とオリジナル2曲(East Coast Love AffairとB Blues)の8曲です(本書に収録された曲順は、CDの収録曲の順番とは異なっています)。
これまでの偉大なジャズ・ミュージシャンがそうであったように、スタンダード曲はそのプレイヤーの真価が問われるものです。この作品では若かりしKurtがアーティストとして各曲をどのように解釈し、独自のスタイルを芽吹かせるに至ったかを聴くことができる絶好の機会といえます。
Kurt Rosenwinkel について
Kurtは、1970年フィラデルフィアの音楽一家に生まれました。BeatlesのアルバムSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandを耳にした彼は12才でギターを手に取り、演奏を始めました。
Kurtとジャズとの最初の出会いは、高校時代に地元のジャズ専門ラジオ局から流れる曲を聴いたことでした。これをきっかけにKurtはバークリー音楽大学への進学を決め、1988年に入学。1991年にヴァイブ奏者Gary Burtonのグループに加入するまでをバークリー音大で過ごしました。
華々しいスタートを切ったあともPaul Motian、Mark Turner、Seamus Blake、Brian Blade、Tim Hagansなど、著名 なジャズ・ミュージシャンとの共演やレコーディングを重ね現在に至ります。1991年にNYに拠点を移して以降は、最先端のシーンが繰り広げられるマンハッタンで頭角を表し、まもなく有名ジャズクラブSmall'sなどで日常的にパフォーマンスをするようになりました。
彼の革新的なプレイ・スタイルが各方面から注目を集め、1995年にはNational Endowment for the ArtsのComposers Awardを受賞しました。2001年には名門Verveレコードと契約し、ツアーで世界中を回りながら意欲的な作品を多数リリースしています。現在Kurtは家族とともにベルリンに在住し、Jazz Institutギター学部の学部長を務めています。
著者 Brandon Bernstein (ブランドン・バーンスタイン) について
14才でギターを学び始めたBrandon Bernsteinは、バークリー音楽大学在学中、18才でジャズとインプロヴィゼイションの魅力に目覚めました。1学期をバークリーで過ごしたのちカナダのモントリオールに渡り、4年間ジャズを学び、2003年Concordia UniversityにてJazz Performance 学士号を取得しています。
Concordia Universityでの学習を終えると、University of Louisvilleでティーチング・アシスタントの大学院生として全額奨学金を取得しました。2005年、同大学でJazz Performanceの修士号を得て、修了後は University of Southern Californiaのティーチング・アシスタント制度を受け、2008年秋に博士過程を修了しました。
Brandonは、Just Jazz Guitar誌とJazz Improv誌に連載をもち、新作CDのレビューを寄稿するなど、ライターとしての顔ももっています。
ジャズ教育界への多くの貢献のなかでも特に高い評価を受けたのは、2006年マレーシアのクアラルンプールで開催されたISME (International Society of Music Education Conference) での、音楽教育の展望についてのレクチャーでしょう。各方面からの要望を受けて2008年にイタリアで再度講演した際には、クリエイティブなプロセスを教育の現場に取り入れる方法について講演しました。
ギタリストとして、Brandonはさまざまな有名アーティストに師事し、共演を果たしてきました。Larry Koonse、Pat Kelley、Bruce Forman、Adam Del Monte、Delfeayo Marsalis、Craig Wagner、Terrell Stafford、Frank Potenza、Roddy Ellias、Greg Amirault、Jack Wilkins、Gene Bertoncini、Ben Monder、Charles Ellison、John LaBarbera、Matt Otto、Tim Pleasant、Jimmy Wyble、John Goldsby、Harry Pickens、Remi Bolduc、Sid Jacobs、Walter Smith、Kate Reid、Ambrose Akinmusire、Sam Minaie、Ochion Jewell、Mark Ferber。Brandon のデビュー・アルバムSolitude は、2008年秋に発売されています。
Brandonは現在、Cypress Collegeの非常勤講師としてジャズ・ギターを指導しています。現役のジャズ・ギタリストとしても、LAを拠点に精力的にステージに立っています。
愛用のギターはRoger Borys B-120(ハンドメイド・アーチトップ)と、Paul McGill のハンドメイド・ナイロン・ギター(Super Ace)です。弦はThomastik-Infeld、アンプはClarus 1RをRaezer Edgeスピーカーに繋いでいます。
著者 Matthew Warnock (マシュー・ワーノック) について
Matt Warnock
Matt Warnock は、16才でRoyal Conservatory of Musicに入学し、クラシック・ギターを学び始めました。1998年にモントリオールに移ると専攻をジャズ・スタディに変更し、2003年McGill Universityのジャズ・ギター・パフォーマンス学科で音楽学学士号(BMUS)を取得。McGill Universityを卒業後にWestern Michigan Universityでティーチング・アシスタント制度の全額奨学金を取得すると、2005年にジャズ・パフォーマンスの音楽学修士号(MMUS)を修了しました。音楽理論も併せて専攻しています。
2008年、Matt はUniversity of Illinoisでジャズ・パフォーマンスの音楽学博士号を修了。作曲も同時に専攻した3年間では、大学生、修士、博士課程の大学院生に対してジャズ・ギター・レッスンを行い、ジャズ・ギター・アンサンブルの指導を担当しました。
Matt Warnock は、現在Western Illinois Universityのギター科の教授で、ジャズとクラシックの応用レッスン、ギター・アンサンブルの指導、Hopper Faculty Jazztetでの演奏などに携わっています。Interlochen Arts Campでも教鞭を執り、ジャズ・ギター・レッスン、ジャズ・インプロヴィゼイション、ジャズ・リズム・セクション・セミナー、ジャズ・リズム・セクションの歴史、ジャズ・ギター・アンサンブルの指導をしています。
Matt は指導と演奏のかたわら、Just Jazz Guitar誌、Modern Guitar誌、Jazz Guitar Gazette誌、Jazz Guitar Life誌などにレッスンやレビュー、記事などの寄稿をしています。フリーランス・ライターとしてアメリカの音楽出版社Hal Leonardと契約しており、
MusicEdMagic.com の スタッフ・ライターも務めています。